新人社員とベテランアルバイトの関係性を切る

新人社員とベテランアルバイトの関係性を切る

私は、社内の環境(雰囲気、社風)こそが、書店の売上を左右すると思っています。
そして環境を作るのは店長を始めとした社員であるべきだとも思っています。

そんなことを言うと、ベテランで戦力になっているアルバイトやパートの方が嫌な顔をするかもしれませんが、やはり店舗の売上を担うのは社員であるべきだと考えています。
そもそも能力以前に、社員とアルバイトでは役割が違うと考えています。社員は長期的視点を持つべきで、アルバイトは短期的視点で働くべきなのです。具体的には、〔長期的視点と短期的視点〕で紹介しています。

役割が異なるため、アルバイトやパートがトータルで店舗の利益を上げるという視点に立って物事を考え・実行しなくてもいいのです。また、アルバイトやパートがどれだけ仕事ができても、どんなに本に詳しくても、売場作りに長けていても、接客が良くても、そうした視点に立った行動ができるとは思っていません。(そうした書店のアルバイトに出会ったこともありません)

今回書くのは、書店経営では、”何を差し置いても社員を育てるべき”ということを紹介したいと思います。またそうした書店の事例なども少し触れます。


書店の社員人員の現状


世の中の書店では「あるある」なことに少し触れたいと思います。

多くの書店は担当制を導入し、店舗運営をしています。〔担当制の恩恵と弊害を考える
カテゴリや棚に担当者を付けて、品出しや発注を行なっている書店が多いでしょう。
そんな中、一昔前の書店では1店舗にそれなりに社員の人数もいましした。店長は担当を持たず、お店全体や出版社とのやり取りを行い、社員はそれぞれの担当カテゴリを持ち、自ら考え売場計画や販売をするといった運営を行なっていました。
しかし、書店の経営が悪化するにつれ、人件費削減が進み、1店舗における社員の数は年々減っていきました。今では社員は店長だけであったり、社員の店長が数店舗を掛け持ち、店舗営業は基本アルバイト・パートに任せるといった書店運営をするお店も増えてきました。

超書店員によるシフト作成方法〕でも紹介しましたが、人件費削減の工夫には賛成ですが、過度に社員を減らしたり、回ればいい(営業できればいい)という考えには反対です。
そうすることにより売上が上がるとは思えないからです。

とはいえ、このように舵取りをしてきた書店の経営陣の気持ちが分からないわけではありません。それほど書店で働く社員の多くは、自分の店に対して自分意識を持っていない人が多くいるのです。

そして、書店員が自分の店に対して、自分意識を持てない原因は、結構根深い問題だとも感じます。


書店に入社した新人社員が陥る罠


根深い問題だと書いたのには理由があります。
これは、新入社員で入ってきた時から多くの書店で起こる、ちょっとした悪い文化に侵食されるところから始まるからです。

多くの人は、アルバイトの先(アルバイトの延長線上、アルバイトの上)に社員の存在があると感じていますが、それは半分正解で半分不正解です。

その証拠に、新入社員で入った従業員は、先輩社員だけでなく、ベテランアルバイトやベテランパートに色々と教わり始めます。新入社員は、当然教わらなければいけないことばかりです。売場のこと、レジのこと、備品のこと、消耗品のこと、定期のこと、本の発注のことetc…
しかしそれは、知らないことを知るために教わるだけす。新人社員よりもベテランアルバイトの方が立場が上だからではありません。社員は長期的な視点で物事を考えて動かなければいけませんし、お店の売上が悪い場合、責任は社員にあるのです。

まずそのことを先輩社員が理解していなければいけませんし、アルバイトやパートにもその認識を持たせなければいけません。

その認識のない書店は次、どうなると思います?

新人社員は一通りの仕事を覚えます。アルバイト同様卒なく仕事ができるようになり、ベテランアルバイトやパートと同様、シフトの重要な要因として数えられるようになります。
また、担当を任されるようになります。書店を志望して入社する新入社員です。それなりに本への思い入れや知識のある方もいるかもしれません。要領の良い人なんかはサッと馴染むでしょう。
恐らくここで「以上終わり」です。(そういった人がほとんどです)

実はこの現象は、ベテランのアルバイトが一人増えた程度にしかなっていません。ベテランのアルバイトが増えることで売上が上がるのなら楽なんですが、そんなわけありません。
社員は一通りの仕事ができるようになれば、むしろ出来るようにならなくても、別のステージで働かなくてはいけないのです。それが、長期的視点の仕事です。

例えば、今後の売場計画であったり、人員計画、イベントの企画、フェアのスケジュールです。
利益を最大化するための戦略を練る必要があります。


新入社員の悲惨な現状


社員は、長期的視点の仕事を始めるべきと書きましたが、まずは短期的視点の仕事との違いを、ここでは簡単に説明します。〔長期的視点と短期的視点

短期的視点の仕事は、いわゆる目の前の仕事です。例えば、レジ、カバー、接客、品出しなどです。レジでは釣り銭などのミスがないか、接客では目の前のお客様の探してる本をすぐに見つけられるか、カバーは短時間でかけられるかなど、今やっている作業のレベルを上げることが高得点につながる仕事です。
アルバイトには、短期的視点を求めます。そのため、この能力が高いスタッフは高評価になります。

しかし社員は同じ指標で評価するわけにはいきません。長期的視点の仕事が必要になってくるからです。
長期的視点の仕事は、いわゆるお店の利益や売上をどう確保していくのか戦略的・戦術的に考える仕事です。(ここでは具体例に縛られて欲しくないので具体例は挙げませんが)全体を見る力が必要になってきます。そしてそれは、自ら気づいて・考えて・周りを巻き込んでいく能力が必要になってきます。そのため、マネジメントなどの仕事も出てくるでしょう。

 

そんな中、書店はカテゴリ担当を設けた運営を行っているお店がほとんどです。さらにその担当は、社員数の減った現在の書店運営では、ベテランアルバイトやパートなどが任されています。

新入社員は自ら考えて行動し、全体を見ていく(長期的視点で仕事をしていく)経験値を積まなければいけないにも関わらず、彼らに口出しをできない環境文化ができあがっていることがほとんどなのです。

すると、新入社員はどういう方向に向かうかといえば、短期的視点の仕事の精度を上げることがレベルアプであり、自分には必要だと考えます。超アルバイトになれば、優秀な書店員になれると気付かない間にそう思い込むようになります。これではいつまでたっても超書店員にはなれませんし、このようなスタッフばかりの書店では売上が良くなるとは思えません。


社員とアルバイトの役割を明確にする


活躍できる強いチームとは、優秀な監督やコーチがいて、優秀なフォワードやディフェンスなどの選手がいるはずです。スタッフ全員がフォワード力を鍛えるだけで活躍できるチームになる訳ではありません。マネジメントや全体旗を目的の方向に誘導したり、目標値に旗を立てる監督の役目も必要です。
大事なのは役割であり、それを認識して自らのポジションを理解しそれを全うすることです。

役割が違うため、社員とアルバイトを区分けすることが大事だと考えています。そして、アルバイトの延長線上に社員があるという考えが若干違うと考えています。


ベテランアルバイトがいることの弊害


書店全体(会社)として、社員とアルバイトの区分けがしっかりしていないと、弊害が起こる可能性が高まります。
新入社員は、ベテランアルバイトやベテランパートに短期的仕事を教えてもらうと書きましたが、そこの関係性を超えられない社員が多いと感じます。
立場が違うにも関わらず、責任が違うにも関わらず、仕事内容が違うにも関わらず、アルバイトやパートに強く言えない社員が多くいます。
そんなことで長期的な仕事ができるわけがありません。ましてや、店長や副店長など役職ができた社員だとしても、新人時代に教わったベテランには気を遣っているところを見かけます。
それが店舗としての利益最大化と言えるでしょうか。

会社の文化として、社員を尊重し、社員は別枠の従業員として認識し、社員教育に力を入れることが大事だと思います。


(事例)社員を特別扱いし弊害をなくす


ある大手の書店チェーンでは、採用したアルバイトは長くても3年で辞めてもらう(それ以上は契約をしない)というところがあります。もしそれ以上続ける(書店側も続けて欲しい、本人も働きたい)のであれば、アルバイトから、契約社員もしくは正社員になって働かなくてはならないそうです。

この考えは非常に社員を鍛えるという意思を感じます。
社員が育てば、アルバイトやパートは歴が長いとか浅いとか関係ありません。社員がお店の全体を把握し、お店全体を導いていく必要があります。

また、新人だけでなく異動してきた新人店長にとって、ベテランのあの人には何も言えないという事なかれ主義も蔓延せずに済みます。
ただし、社員の責任は重大です。やりやすい環境が整う分、自分自身の技量によってお店の売上が大きく変わってくるからです。

店舗営業という面では、長いこと働いてくれているベテランに任せておけば、問題は起こりにくいかもしれません。しかし、成長がないと感じたら、それは今回紹介したような弊害が起きている証拠でしょう。会社がアルバイトは3年で辞めてもらうくらいの覚悟を持ち、社員へ裁量を与えている書店は強くなります。自ら考え、自ら行動できる人が現れています。

ベテランアルバイトやベテランパートを大切にするのか、社員を育てることを大切にするのか、もしくは両立を目指すという方向性もあるのかもしれません。とはいえ、働きづらい環境を改善するためにベテランに辞めてもらうという選択は、書店経営をする会社の覚悟を感じさせられます。

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