文庫売場は【出版社別】【著者別】どちらを選ぶべきか

文庫売場は【出版社別】【著者別】どちらを選ぶべきか

ここ何年かで文庫売場に大きな変化が見られます。
出版社順に分かれていた棚が、どんどん著者順になっています。

書店における文庫は、在庫売価も売上構成比率も高く、売場スペースも大きなカテゴリです。そんな文庫売場の棚が大きく変わっているのです。しかも大型書店になればなるほど著者順になっているのです。
これは何故なのでしょう。そして、どちらの方が良い文庫売場と言えるのでしょうか。

今回は、この文庫売場の棚について、それぞれのメリット・デメリットを元に、売れる売場を考えてみます。


出版社順の文庫売場


まずは出版社ごとに文庫棚が分かれていることのメリットを確認していきましょう。

メリット

本の管理がしやすい
何と言っても書店員にとって出版社別に分かれているということは、管理のしやすさが最大のメリットといえます。文庫には、出版社ごとの独自の分類番号が振ってあります。人気作家が連番で抜けていれば、棚を一目見れば把握できますし、お客様の問い合わせに対しても分類番号で棚を追えばすぐに目的の本を探し出すことができます。
それに加え、何より棚の在庫チェックにおいて大きな威力を発揮します。出版社が新刊や売筋ランキングを毎月発表・冊子で送ってきます。そのランキングで棚をきちんと管理している書店であれば、出版社別に文庫売場が分かれていれば、その棚内の文庫をチェックするだけで非常に効率的に済みます。

棚に統一感が出る
文庫棚に統一感が出ます。文庫は出版社ごとに表紙・背表紙のデザインに特徴があります。集英社文庫であればツルツルの表紙素材を使用していたり、新潮社文庫であればマッドなタイプです。
また、もちろん背表紙におけるタイトルや著者を書く位置なども出版社ごとに決まっていますので、棚に収まった際に統一感の出るまとまった売場になります。


著者順の文庫売場


次に著者順で文庫棚が分かれていることのメリットを確認していきます。

メリット

同じ作家の作品を網羅できる
作家にはファンがいます。読んだ本の続きを買いに来たり、他の作品を探しに来たお客様に対して、作家ごとに文庫が並んでいれば本を見つけるのが容易になります。
著者のあいうえお順であれば、書店員に聞かなくても自分で探せますし、読んでない本を自ら見つけてくれることもあるかもしれません。

棚や作家のボリューム感が分かる
人気の著者などは、書店員や文庫担当であれば調べなくても把握していることでしょう。それが著者順に棚割されていたら一目で在庫ボリュームを確認することができます。出版社ごとに分かれている際には、特定の出版社の在庫が少なくても気づきにくのですが、その著者の文庫全てが集まってしまえば「この著者の作品少なくない?」というのが気づけます。有川浩の作品はこのボリュームでいいのか、松本清張の作品はこのボリュームでいいのかなんて、全部集めて見ないと分からないものです。

出版社に縛られずに売筋で棚を管理できる
出版社ごとに分かれていた際はどうしても変動できないことがありました。棚割です。新潮社の文庫はこの棚、角川の文庫はこの棚と決まっていたため、売れてるから新潮文庫のこのシリーズを入れたいけど、角川のランキングが低いものは返品してしまいたいけど、といったことに融通が効きません。
著者順は単純に全ての出版社の文庫を平等に返品したり入荷したりしても、売場として何も問題ありません。売筋やランキング上位を棚に入れ、非稼動在庫やランキング下位を返品することができます。


結局はどっちの売場を選ぶべきか


では、出版社別、著者順のどちらの文庫売場を選ぶべきなのでしょうか。

答えは簡単、著者順です。

それぞれのメリットを見ても分かる通り、出版社別にしているメリットは書店側の都合なのに対し、著者順のメリットはお客様の要望も含まれたものになっています。

そもそも、書店員なら分かるはずです。
文庫売場で「池井戸潤の本どこ?」「まだ読んでない大沢在昌読みたいから場所教えて?」といったお客様の問い合わせに、どうやって案内していますか。講談社はココ、光文社はココ、徳間は・・・と答えているのですか。
お客様にとっては出版社を意識することはありませんし、出版社がどこなんて関係ありません。それを書店側の管理がしやすいという都合で売場が分断されているのはナンセンスです。こうした問い合わせがあった時点で、著者順にする必要があると気づくべきなのです。自分で探そうとして、本があるにも関わらず探しきれずに帰ったお客様が今までに何人いると思いますか?想像してみてください。

結局は、より売れる方が売場として正しいのです。売れるということは、お客様から評価されていることとイコールだからです。
ですので、文庫売場が出版社順になっている書店は著者順に並べ替えましょう。
そうすべきと思ったとしても売場変更をしないのは、ただの怠慢ですよ。

以前、私も自分の店の文庫売場を出版社順から全て著者順に変更したことがあります。
そこまで大きな売場面積ではありませんでしたが、営業中に徐々に変更していったため、2人掛かりで丸々一週間はかかりました。(細かな並び替えも含めればもう1人くらいスタッフを付けました)

それを横目で見ていた他店舗の店長もいましたが、その店長は自分の店で著者順への並べ替えを実施していません。下のスタッフが「ウチも並べ替えなくていいんですか?」と聞いたらしいのですが、「大変だからいい。」と答えたらしいです。それでは、売上は上がりませんね。

あなたの書店はこうはなっていませんか?


変更の際に注意すること


これを読んだ書店員の皆さんは、善は急げとすぐに棚から本を抜き著者順に並べ替えようとする方もいるかもしれません。
個人的にそういう方は好きですが、ちょとだけ待ってください。
実際やってみると分るのですが、何をどこまで混ぜた棚を作るかも大事なので、実際に取り組む前にどうするのか考えておく必要があります。

要するに「文庫」というサイズのみで棚を混ぜると、全て一色単になり過ぎて逆に探しにくい売場になってしまう可能性があるということです。文庫の内容を加味した上で、お客様のためもう一工夫する必要があるかもしれません。
どの程度混ぜて、どの程度ジャンルを分けるのかは、事前に決めてから行うのです。

一般文芸は全て混ざって問題はありませんが、文庫には、雑学文庫、歴史小説、エッセイ、ラノベ、ライト文芸、官能小説など様々な内容が存在します。これを全部混ぜて著者順にすると、かえってお客様のためになりません。
この辺はお客様層や、どうやって本を探しに来るか、見つけるかを考えなければいけません。

雑学文庫、官能小説、ラノベは別にするのは簡単に想像できそうです。一般文芸とエッセイは一緒にしてしまっても良さそうです。
では、歴史小説、ライト文芸はどうでしょう。書店員であるあなたはどう思いますか。

実際のところ、こうしなければいけないという答えはありません。多少なりとも店舗で議論してもらって決めていくのが一番いいと思います。そして、大型書店や新しくできる書店の大多数は、著者順になっています。この辺りを偵察に行くのもありだと思います。また、取次はこうしたデータを持っています。文庫を著者順に並べ、歴史小説は別コーナーにしようとした場合の「この著者は歴史小説コーナーにすべき」というデータも持っています。
このように大掛かりな売場変更の際には、取次や出版社などに話をしながら巻き込んでみると、彼らが色々な形で協力してくれるようになるので、取り組みやすくなりますよ。

まだ文庫売場が出版社別に分かれている書店は、著者順に並べ替えてみてください。

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