あまり良いことではないのですが、書店員の方は、数字が苦手です。
もちろん店長などは、売上や経費をコントロールしながら店舗を運営していかなければいけないので、否が応でも数字と関わり合いながら仕事をします。
とはいえ、他の小売店と比べても、数字に対する苦手意識は非常に高いと思います。
そもそも文系が多かったり、委託制度がそういった現実を作ってしまっているのかもしれませんが、やはりお店を構えて商品を売っている以上、最低限の数字に対する苦手意識を取り払い、アプローチ方法を知っておかなければいけません。
先輩も数字に対してあまり理解がないので、代々教えてきてもらえなかったというのが実体かもしれませんね。
今回は、数字の中でも一番理解しておかなければならない「売上」について、基本を紐解いていきますので、知らなかった方はぜひ覚えてください。
本屋における「売上」とはいったい何?
今回紹介する「売上」ですが、そもそも売上とは何ですか?
「売上を上げたい」そう思う書店員は沢山います。というか、「売上を下げたい」と思っている書店員は全国に一人もいません。きっといないはずです、よね?
では、その上げたいと思っている売上とは、何だか知っていますか。
売上は、閉店後にレジを精算して最後に出てくる数字です。ですから、お客様が買ってくれた本の金額を、全て足し合わせた金額ということになります。
本屋の売上を導き出す[公式1]客数 × 客単価
本屋における「売上」とは、レジでお会計をしたお客様の数(客数)と、お客様が平均でいくらの買い物をしたのか(客単価)を掛け合わせた数字になるということが分かります。
売上 = 客数 × 客単価
つまり、売上が下がっているということは、客数、客単価のどちらか(もしくは両方)が下がっているということになります。このように数字をどんどん分解して見ると、数字が生きたものになってきますので、もう少し掘り下げてみましょう。
では、本屋における「客数」とは何でしょうか。
客数は、レジでお会計をしたお客様の数です。つまり、来店されたお客様の数(来店数)の内、何割の方が買い物をしたか(買い上げ率)を掛け合わせた数字になることが分かります。
客数 = 来店数 × 買上げ率
では、本屋における「客単価」とは何でしょうか。
客単価は、平均で1冊いくらの本を買われたのか(1点の平均単価)と、1人のお客様が平均で何店の商品を買ったか(1人辺りの平均購入点数)を掛け合わせた数字になることが分かります。
客単価 = 1点の平均単価 × 1人辺りの平均購入点数
ここまで分解すれば、売上が悪い原因やその対策を考えることができるはずです。
来店数が減っていて売上が落ちている場合は、リピーターを増やす施策をしたり、新規客を呼び込むようなイベントやウェブでの告知を仕掛けたり、ロードサイド店であれば道路に面したガラス面を工夫したり、様々な取り組みが考えられます。
ただし、過疎化が進んでいて商圏の人口が減っている、テナントのビルの集客力が弱くなっているなどの外的要因も大きいのが来店数です。その場合は、来店数が悪いからとその数字に固執せずに、別の箇所を上げる工夫をするなど切り替えが必要です。
買い上げ率が減って売上が落ちている場合は、商品や売場の問題がほとんどです。話題の商品が取り揃えられていない、本が探しづらい、フェア台に魅力がない、POPなど訴求力がない、店内が汚い、棚の中身が変わりばえしないなど、日頃の怠慢を見直さなければいけません。
1点の平均単価が減って売上が落ちている場合は、展示の仕方やPOPなどで高額商品を売る努力をしていない、そもそも品揃えが安い本しか置いていないなどあるかもしれません。
本を値段で売ることはあまり意識していないかもしれませんが、家具屋でも電気屋でも、高い商品は他の安い商品と明らかに違う展示のされ方ををしていますので、高い本の魅力ある売り方、差別化された売り方とは何なのかを考えてみるといいかもしれません。
1人辺りの平均購入点数が減って売上が落ちている場合は、「ついで買い」や「衝動買い」などが起こらない売場になってしまっています。訴求力のあるPOP、世の中の人が気になっている話題のキーワードキャッチし平台に展開できているか、季節感を表現できているか、ランキング上位の本が揃えられているかなど、売場や商品を見つめ直してみてください。
書店の売上を導き出す[公式2]平均在庫売価 × 回転率
本屋における売上を、もう一つの側面から考える必要もあります。それが、在庫効率です。書店の在庫を分析する上で大切な数字でも触れていますが、売上とは在庫(商品)があって、初めて売上に繋がるのです。全ての売上を作り出す、この在庫の数字も大切です。
単純に考えて、よく売れる在庫がたくさんあれば、本屋の売上は上がっていきます。
1年に1回売れる本を100冊揃えた店、1年に2回売れる本を50冊揃えた店では、年間の売上が同じだということが分かります。当たり前のように聞こえますが、しかし、前者の方は売場面積が2倍なことを忘れてはいけません。どの本屋も限られた売場売場面積の中で、棚を構成しています。あの本を置きたい、この本がない、など悪戦苦闘しながら店舗運営をしている担当者の方がほとんどでしょう。
もしそうであるならば、後者の売場面積が半分であるにも関わらず、売上は一緒という在庫を目指さなければなりません。
つまり前者と後者の何が違うのかというと、在庫が売上に繋がる効率が違うのです。この効率の良さを計る指標のことを「回転率」と言います。
回転率を基に、お店の数字を理解し、お店を改善していくのです。
売上 = 平均在庫売価 × 回転率
回転率は、基本的に1年間で求められてことが多いため、平均在庫売価も年間の平均在庫売価になります。とはいえ、この数字がすぐにでない書店(本来はこのくらいの数字は管理しておくべきなのですが)は、ゼロから計算するのも面倒だと思います。
直近1年で大きく売場を変えた、棚構成を変えたなどがなければ、現在の在庫売価で計算してしまっても大きく異なる数字にはならないと思います。(季節商品はダメですよ)
※きちんと計算したい方は、平均在庫売価は、「(期首在庫売価+期末在庫売価)÷2」で計算できますので、1年前と現在の在庫売価で計算してみてください。
回転率の数字が高いということは「効率よく売れている」「小さな売場で売上が高い」とも言い換えられることが分かりました。
そこであなたの本屋の回転率をカテゴリごとに求めてみてください。
カテゴリによって、回転率は大きく異なります。雑誌やコミックが高いのに対し、理工書やビジネス書は低かったお店が多かったかもしれません(立地や規模によって変わってくるので一概には言えませんが)。そのため、コンビニなど限られた売場面積に本を置く場合には、雑誌やコミックが選ばれているのです。そうやってコンビニの商品は、回転率を意識して商品が選定されています。
回転率を書店運営に役立てようとすると、気づけることがいくつもあります。例を少しだけ紹介します。
|書店運営に役立つ回転率の使い方1
カテゴリごとの回転率を毎月追ってみたところ、回転率が悪化しているカテゴリがあったとします。計算式を見れば一目瞭然なのですが、回転率が落ちる理由は2つあります。「売れていない」「在庫が増えている」どちらかです。
もし仮に、他のカテゴリの売上が落ちていないにも関わらず特定のカテゴリだけが悪化しているのだとしたら在庫を疑うべきです。在庫売価が増えて売上が落ちているのだとしたら、疑うべきは「売場」「ストックヤード」です。売場に本が詰め込まれて選びにくくなっている、仕入れ量が多すぎて新しい本が売場に出せずストックされている、など疑うべきことはいくつもあります。
そのあとは、仕入額・返品額などを調べ、なぜ在庫が増えたのか、どんな本が増えたのかを調べていけば原因は特定できます。
|書店運営に役立つ回転率の使い方2
売場を変更する際にも回転率は役立ちます。回転率は、売上予測が最も立て易い指標になるからです。回転率の計算式には、売上と在庫売価しかでてきません。つまり、売上は在庫売価でコントロールできることを表しています。これは当たり前の話で、特定カテゴリの在庫を増やせば、そのカテゴリの売上も伸びるはずです。
仮に、実用書の売上を改善しようと思います。(本来はもっと考えるべきことがあるのですが、分かりやすく単純化して説明します。)
実用書の売上を支えているのは「健康本」「料理本」です。
・健康本の在庫売価1,000,000円で回転率が2.0
・料理本の在庫売価1,000,000円で回転率が4.0
だった場合、2つ合わせた年間の売上は6,000,000円です。それを、健康本の売場を半分にして、料理本の棚をその分増やすとどうなるでしょう。
・健康本の在庫売価 500,000円で回転率が2.0
・料理本の在庫売価1,500,000円で回転率が4.0
に変更したことにより、2つ合わせた年間の売上は7,000,000円になります。
このようにして、どの在庫を削って、何の在庫を増やしたら、売上がどのように変化するかを予測することができます。
またこの回転率を他店や全国平均と比べることにより、自店の取り組むべき方向性も見えてきます。
「在庫が増えて回転率が同じなら売上は伸びる」「在庫が減っても回転率が上がれば売上は同じ」こうした特性を理解しながら他店舗と比べることが必要になってきます。
まとめ
書店員として理解すべき「売上」とはどういった数字なのか理解できましたでしょうか。
第一段階として、普段あなたが見る数字が何のことなのか理解する必要があります。
第二段階として、普段あなたが行う仕事がどの数字に繋がってくるのかを理解する必要があります。そして、その取り組みによってきちんとその数字に変化があったのかを検証する必要があります。
第三段階として、数字を見ることでお店の改善策を見出せるようになる必要があります。
まずはあなたがどの段階なのかを把握し、段階を登っていってください。
今回紹介した公式は、どちらも売上を上げるためには知らなければいけない数字ですので最後にもう一度だけ紹介しておきます。
[公式1] 売上 = 客数 × 客単価
これが、お客様目線で売上を見た際の公式です。
[公式2] 売上 = 平均在庫売価 × 回転率
これが、お店目線で売上を見た際の公式です。
分からなかった部分は、先輩に聞いたり本を読むなどして、必ず理解しておいてください。