〔本の売上の分配率〕出版業界のお金と各社の重要な役割

〔本の売上の分配率〕出版業界のお金と各社の重要な役割

書店員が知っておくべき出版物流通の仕組み


本の流通の仕組み 新人が超書店員になるには覚えなくてはならないのが、出版業界の仕組みです。

中でも、本の流通の仕組みや制度、それに関わる企業、そこを流れるお金などを把握しておく必要があります。
この辺の話を詳しく説明すると、ものすごく長くなります。

きちんと理解しておきたい人は、自分で調べるなり先輩に聞いて勉強してください。

今回は「書店員目線」だったら、「こういう認識をすればいい」という解説をします。

 

3部に分けて説明したいと思います。

  1. 出版業界の流通の仕組みを理解する【Part1】本が読者の手に届くまで
  2. 出版業界の流通の仕組みを理解する【Part2】書店の役割を実現する再販売価格維持制度と委託制度
  3. 出版業界の流通の仕組みを理解する【Part3】お金と重要な役割 ← 今回はこの説明

出版業界を流れるお金の話


出版業界の流通の仕組みを理解するPart1とPart2を理解した上で、出版業界のお金の話と、本が読者に届けられるまでの役割をもう少し詳しく理解しておく必要があります。

まずはお金の話です。
出版業界の流通に出てきた登場人物をもう一度おさらいしましょう。

著者、出版社、取次、書店(+ 印刷会社、運送会社)

この4者がいることで、本が読者の元に届けられてきたわけです。では、書店でチャリーンと本が売れたお金は、この4者にどのように振り分けられるのでしょうか。

この出版業界のお金の構造を理解しておく必要があります。

このお金の取り分は、それぞれの会社がそれぞれ契約を交わして決まっているため、一律に「いくら」というのはありません。同じ本が売れても、書店によって利益は違いますし、著者の印税も違います。
そのため、きちんとした自店舗の利益率は経営陣に聞いてもらうとして(取次と契約を交わしています。また雑誌と書籍で利益率が違ったりもします。)今回は、一般的な相場で理解しておきましょう。

 


著者の取り分 印税


著者の取り分は、一般的には「印税」と呼ばれています。
この印税は、書籍代の10%程度になります。1,000円の本が売れて、100円ですね。

書店に職業体験に来た中学生や高校生などに聞いてみると、著者の10%は安いと驚かれることがほとんどです。
新人書店員の感覚としてはどうですか?

世の中の仕組み的に、ハイリスクハイリターン、ローリスクローリターンが世の常です。
そう聞いてこれまで紹介した出版流通の仕組みを理解してきた書店員であれば分かると思いますが、著者というのはその本が売れようが売れまいがリスクがありません。つまり、本が売れなくても損をしない存在なのです。自ずと、リターンは少なくなります。
しかし、人気作家になれば本が売れることはわかっているため、その割合も高くなりますし、出版社との間でその取り決めはなされています。

とはいえ、この印税の割合に関してはいろいろと思うところがあります。
これまでの時代ではこうあるべきだと思いますが、これからの時代は変わっていくべき割合だと感じます。それはまた別のページで書いていきます。


書店の利益


では、1冊の本が売れて、書店の取り分は何パーセントくらいだと思いますか?

書店の利益率は20%程度です。1,000円の本が売れて、200円が利益になります。

書店は店舗を構え、人を雇って給料を払いながらお店を出しています。そのため、本が売れても売れなくても経費はかかります。しかし、売れなかった本はどうするかというと、取次経由で出版社に返品をします。
書店は儲からないけど、潰れにくい仕組みがここにあります。他の小売店に比べて利益が少ないですが、在庫のリスクがありません。

とはいえ、書店員からしたら、この20%は少なすぎる数字だと思います。書店によってこの利益率は違いますので、超書店員たるもの経営陣にこの数字は聞いて把握しておいてください。この数字を把握することで、日々の営業や月次の営業が売上感覚でなく、利益感覚で理解できるようになります。(売上ではなく、利益から全ての経費が払われているのです)この数字は取次との間で契約が交わされています。


取次の取り分


では、取次の取り分はいくらでしょう。

職場体験の学生に聞くと、これが一番難しいようですね。出版流通における大切な役割を果たしているけど、リスクがないですからね。

この取次会社の取り分は、10%程度です。1,000円の本が売れて100円が取次の取り分です。

結局のところ、本と情報を横に流しているだけで、本が売れても売れなくても取次にリスクは一切ありません。
ただし、本当にこれまでの出版流通を支えているのは、取次のおかげなのは間違いありません。また、出版業界全体を見た時に、ここに最も優秀な人材がいる必要があると感じています。

少し横道に逸れますが、Part2で紹介した、再販制度と委託制度を利用した他店舗への嫌がらせや自社中主義がなぜ行われないのか、新人書店員の方は分かりますか。
そもそも、私が書店に入りたての新人の時に、この委託制度を聞いてまず頭に思い浮かんだのが、「沢山仕入れて売れるものは沢山売って、売れないものを沢山返品すればいいじゃん」です。

恐らくこの方法は自店舗の書店利益を考えた時に、思いつくはずです。思いつくような新人書店員は優秀だと思います。(自店利益のことを考えているので)
当時考えたことはこうです。

  1. 何が売れるか分からない状態で、売れないものをリスクなしで返品できるのなら、沢山仕入れて売れるものは残して、売れないものをどんどん返品すればよくない?売れるものをある程度予測できるならその方が「効率」はいいけど、効率を仕事量でカバーすれば売り損じはなくなり、利益は最大化できるはず。
  2. 本が他社に行くくらいなら、自店舗で仕入れた方が、あっちになくてこっちに買いに来るお客様がいるかもしれないからリスクのない在庫は持っておくべき。

このようなことを考えて、目一杯仕入れた方がいいと、委託制度を聞いた時に思っていました。

実はこういうことを全て調整する役割をしているのが、取次なんですよね。
例えば、新しいコミック1巻が発売されて、A店が100冊売って、B店が50冊売って、C店が10冊売ったとしましょう。
その2巻が今度発売されるとなった時に、C店が僕の新人の頃と同じ考えで160冊仕入れるとか言って、自店のポテンシャルを超える量の2巻を仕入れたらどうなるでしょう。作られる本の量は変わりませんから、A店、B店は入荷0冊になってしまいます。そこで、A店B店に買いに来たお客様が買えなくて、C店に来る人も一部いるでしょうが、全員ではありません。買いたい多くの人は買えずに終わってしまいます。
そのあと、C店は60冊売れてウハウハ気分で、100冊返品しますが、本当は160冊売れた可能性のある本をC店のせいで60冊しか売れないことになってしまいます。そんなことをしていては、出版業界はすぐに衰退してしまいます。

このように、過去の販売実績、返品実績、これまでの推移などから、新しい本が最大公約数的に売れる配本を考えるのも取次の役割です。優秀な人材が必要な理由が少し分かってもらえましたか。
書店には取次の担当営業も来ますが、分からないことはその人にいろいろ質問してみてください。新人書店員はその回答で書店員以外の目線で、いろいろ業界のことを学びましょう。そして、取次の担当営業が優秀そうなら手を組むことをおすすめします。他社の優秀な人を紹介してもらったり、新しい取り組みに協力してもらったり、考えていることの他社の事例など豊富に持ってるので、「こういうデータが欲しい」「こういうこと考えてる、他社の成功事例ない?」「これしようと思うんだけど、協力できること何かある?」なんて問いかけると、優秀な人は間違いなく助けてくれます。実は社内の先輩よりも役立ったりして、、、。配本に文句を言ったり、返品不能で戻ってきたことに文句を言うよりも、どう売って行くのかを考えている人に協力してくれますよ。


出版社の利益


最後に出版社の利益です。もうお分かりの通り、1冊の本が売れた時の半分以上は出版社の取り分となります。

出版社の取り分は、60%程度です。ただ、ここから印刷会社への印刷代なども含まれています。1,000円の本が売れて600円程度が出版社の取り分です。
こうして1冊の本が売れた時の取り分を比べてみると、出版業界は出版社が儲かる仕組みになっていることが分かります。

ただし、もう分かると思いますが、出版社はリスクを追っています。委託制度があるため、売れなかった本が戻ってくる可能性があります。その損失は、全て出版社が背負うことになります。

とはいえ出版社は、本の注文が入らなくても売れていなくても、新しい本を出すことにより、その本は委託制度により書店が欲しい欲しくないに関わらず、全国の書店に配本されることになります。それはつまり、出版社に(一時的に)お金が入ることにな流のです。
その「新刊の発行」と「返品」を繰り返しながら、ベストセラーなどのヒット作が出るのを待つようなビジネスモデルをとっています。

リスクを追っていること以外にも、もう一つ出版社の取り分が多くあるべき理由があります。
それは、新しい著者にチャンスを与えることも出版社の役目だということです。

有名作家やファンの多い作家の本は、売れます。
それとは逆に、無名作家や新人作家の本は売れないことの方が多いでしょう。
当たり前の話ですね。

しかし、有名作家の本しか出さないようでは、新しい才能ある作家や若手作家達はチャンスが全くなくなってしまいます。
多くの方が感じる、著者の印税が少なく、出版社の取り分が多く感じられるのは、このことによります。
つまり、有名作家の本の売上で余裕ができたお金を、無名作家や新人作家の本を出すこと(新しいチャレンジ)に使えるわけです。この循環を行うことにより、才能ある作家や漫画家がいつの時代も発掘され、出版文化の発展が続いてきたわけです。


出版業界の流通の仕組みとお金と役割まとめ


出版業界の流通の仕組みの中で回る、お金と役割を紹介しました。
1冊の本が売れた時の、出版流通における取り分はおおよそ以下のようになっています。

著者(10%) ー 出版社(60%) ー 取次(10%) ー 書店(20%)

なぜこのようなお金の流れになっているのかは、新人書店員が理解しておくべきことの一つでしょう。これは業界全体を把握する上で大事なことになるからです。
また何か自分の店舗で本を売るための新しい取り組みをしようと思ったら、この4者の役割を参考に、どこにどのような助けを求めれば協力してもらえるのかを考えてみてください。各者の役割を把握していることで、的確な所に依頼することができます。

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