書店員の方にお聞きしたいことがあります。書店員のみなさんは、出版社の営業に対してどのような思いを持っていますか?
この回答は様々な意見や書店員歴によっても分かれると思いますが、多くの方は出版社ごとによって違う印象を持っていることでしょう。
売場を見て欠本チェックのみ行い補充を促す営業、勧めたい商品をグイグイ押ししてくる営業、売れてる商品や季節商品・フェアの提案も加えてくる営業、世間話だけをする営業、出版社の営業には様々なタイプがあります。
そんな中、出版社の営業を本の注文以外にどうにか利用できないか、自分の店の味方に付けられないか、と考えて実施した方法を今回ご紹介したいと思います。
書店員の営業に対するマズイ対応
書店員は、出版社の営業がおすすめする本をピシャッと断れない人が多いように思います。いらないものはいらない、欲しいものはもっともらえるようにするのも書店員の仕事のひとつです。(こうした交渉が絡んだ注文や配本は、コンピュータにはできず、人が行わなければいけない売上に直結する仕事です)
「断りにくいから、番線だけ押してあとで返品すればいいや」という考えは絶対にやめましょう。
売れるだろうと判断できる本だけにしないと、結局あなたの判断が正解だったのか間違っていたのか検証しようがありません。いつまでたっても目利きの精度は上がってきません。
出版社の営業を利用する
売場に困ったら出版社の営業を利用しましょう。
同じような規模、同じような立地、同じような客層の店舗で他社が成功した仕掛け販売などは安定的に結果が出ます。そんな中、様々な書店の実情を知っているのが、出版社の営業です。出版社の営業は、おそらくあなたよりも多くの書店を回っています。その中で、どんな場所でどんな仕掛け販売をどのくらいの期間行ったら、何冊売れたのかというのを知っています。
出版社の勧める「売れてますよ」「反応いいですよ」
こういった言葉は全て聞き流して、数字で話すようにしましょう。
優秀な出版社の営業は、すぐに数字を答えます。それだけでその人の話は信頼できます。
数字で話を聞いていると、「売れている」のが、この営業にとってはどの程度の規模で月間(週間)何冊で、というのが見えてきます。また、そもそもその他社他店店舗の数字自体が参考になったりします。
そして、売れてるというのであれば、それだけ売れている理由を聞いてみてください。
「何で売れてるんですか?」「どうして他の類書よりも売れてるのですか?」
この質問に対する回答の中には、かなり有益な情報が入っています。
広告掲載による販売数増加の情報、仕掛け販売による販売増加の情報、本の内容にいたるまで、営業から教えてもらいましょう。その情報から、自分の店では何ができるかを考えます。
事例1(売場のPOP作りに役立てる)
例えばこんな小さなことでも、お客様にとっては本選びの基準(本を売るための方法)になると思う、事例を紹介します。
SPIや面接対策などの資格・就職本を例に出してみます。
このジャンルの本では、年度が変わるたびに、2019年度版、2020年度版と変わっていきます。
そんな中、全国ベストを年度で比べて見ると、上位の本のタイトルは同じものがきます。しかも一位はかなりの差でダントツです。成美堂出版のSPIの本なのですが、これが何故だか分かりますか?
成美堂出版のSPIの本が毎年ダントツ一位である理由を知ってる書店員は優秀ですね。
理由までは知らないけれど、一位だということは知っていたという書店員の方は、もう一歩踏み込んでみる必要があるかもしれません。
そもそも、毎年同じタイトルが一位になるなんて知らなかったという書店員の方は、店頭にある本、無い本含め、どの本が人気なのか、全国ランキングなどを見る癖をつけ、売場をもう一度考え直して見るところから始めてみる必要があります。
ちなみにこの本が毎年一位なのは、全国の大学生協で売られているからだと思っている書店員もいるかもしれません。確かに、大学生協の就職関連本の販売ランキングでは、成美堂出版のSPIの本が圧倒的一位です。
しかし、それだけではありません。
書店の大手5,6社くらいの就職関連本のランキングでも、この本は一位なのです。
出版社の営業が来た際に、聞いてみました。
「何でこの本が毎年一位何ですか?」
そしたら、営業が教えてくれた答えはこうでした。隣に置いてある、新星出版社や高橋書店の同じ本を開きながら教えてくれました。
成美堂のSPIの本は、余白が多くなるように作られています。そうすることで、読者は読みやすく感じ、簡単に感じるため、立ち読みで比べた際も成美堂の本を買ってくれるように工夫してあります。とのことでした。
「どれが売れてるか(ランキング一位か?)」もそうですが、この情報は読者が知りたい情報なのではないでしょうか。
SPIの本を買いに来たお客様に対して、「読みやすいのはどの本で」「内容が濃いのがどの本で」「この本のこだわりは何で」といったことを、POPで簡単に書いてあったら、本を選びやすいと思いませんか。
事例2(売場の作り、特に仕掛け販売に役立てる)
先ほど紹介した事例は、今の売場を少し良くするという感じでした。
次に紹介するのは、仕掛け販売で失敗しないための商品選定です。
例えば、店内入口のテーブルやフェア台などに大きく本を積んで、全国ベストとは別に、独自の稼ぎ頭を作ろうとします。世の中で売れている全国ベストはどの書店でも置いているため、独自の色を出すのにこういった仕掛け販売は役立ちます。
そうした時に、どうやって本の選定をすればいいでしょう。
自分のお店の客層に合った本を選ぶのは当たり前なのですが、1タイトルを50冊とか100冊仕入れて、実際にやってみると、売れたり、売れなかったりします。それなりに量を仕入れて店内のいい場所で訴求するわけですから、毎回外したくないわけです。
そんな時に、出版社の営業が役立つを思っています。
出版社の営業に、単品の仕掛け販売の実績を聞けばいいのです。「同規模、同立地、同じ客層の店舗で、単品の仕掛け販売で成功した本はないですか?」「それはどれくらいの期間で、何冊売ったのですか?」「店内のどの場所でどんな拡材を使いましたか?」「その店は、なぜそのタイトルで仕掛けようと思ったのですか?」「仕掛けている時の売場の写真ありますか?」などなど、聞いてみてください。目ぼしい出版社をいくつか聞いてみて、最終的に自分の店でもできそうなやり方で、同期間に一番売れてる本を選んで仕掛けてみてください。
この方法で仕掛けたタイトルは、まず、外しません。
ちゃんと売れてくれます。
自分で本を選定するという面白みや醍醐味はないかもしれませんが、成功事例をコピーペーストでスライドさせるこの方法論は、手札として持っておいた方がいいと思います。
何度かやっていく内に、要領を掴んできて、コピーされる側であるオリジナル(最初)の成功事例を生み出すようになってくるかもしれません。
出版社の営業を味方につける
今回紹介したように、店内を全国ベストで固めるだけでなく、隣の書店と違う色を出す必要がある店舗は、売場で独自の仕掛け販売などをする必要があります。
そんな時に、役立つ情報を持っているのが出版社の営業でした。
自分の欲しい情報を得るために、色々と質問をしましょう。そうしている内に、段々と味方になってくれるはずです。
今は出版社の営業の対応が面倒だとか、勧められてくる本を断るのが断りづらいとか、あるかもしれません。
そうだとしても今後は、自分の店のことだけを考えて、対応すればいいのです。
自分がお店や売場をこうしたいという考え、数字がない話はいらないという2つの考えが営業に伝わると、本当に無駄な提案はしてこなくなります。営業も考えて(自分の店のことだけを思って)提案をしてくるようになります。
そうなると、
来店したにも関わらず、今回は提案できそうなものはありません、と言われる時さえあります。
来月は売場をどうしていこうと思っていますかを、まず聞かれる時さえあります。
そして、必ず数字を用意してきてくれるようになります。
数字で話ができるので、出版社の営業もすぐに理解してくれます。
「(表を見せてもらいながら)この料理本何ですけど、◯◯書店で、3ヶ月試してみて、月平均20冊でした」という提案に対し「それだったら、△△書店で●●出版社から出てる料理本は、月50冊だったみたいだからそっちの方にしようかな」と答えると、「そんなに差があるなら今回はそっちの方がいいですね」と、すぐに引きます。
もう一人スタッフが増えたと思う所まで育てる
また、信用できる営業(自分の店のことを思って提案してくれている)だと判断できた場合は、もう一段階掘り下げて、こんなやり取りをしてもいいです。
出版社の営業と話をする際は、どの本を仕掛けるかを決めるだけでなく、その本をどこに置きたいか、どこに置けば売れると思うかも聞きます。仕掛ける本、仕掛ける場所など最終的な判断は、あなたがしますが、全国の書店をみてきた中で、結果の出そうな場所を考えてもらいます。
もちろん、店舗の入口など、とにかく目立つ場所を言ってくるだけの人もいますが、それだけの自信があって売れなければ、その人の提案に対する信用は落ちる旨もそれとなく伝えます。
その辺は信頼関係なので、お店のことを思って売れると言っているのか、自分の営業成績のことだけを思って言っているのか見極めるには、数字と信頼度の両側面が必要になってきます。
仕掛ける本や、売場の場所を一緒に考えてもらう中で、必要だと思われる拡材なども調整してもらいましょう。既製のものだけでなく、売場やボリュームに合わせたサイズのものを作ってもらってもいいでしょう。
出版社の営業を書店側の視点に育てるのです。
書店に番線を押してもらうのではなく、一緒にお客様に売るということを視野に入れた営業に育てていきましょう。
そうすれば、給与を払わなくていいスタッフが増えたも同然です。